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横浜地方裁判所 昭和55年(行ウ)26号 判決 1985年8月21日

神奈川県高座郡寒川町宮山九五九番地

原告

金子雄一

右訴訟代理人弁護士

高橋理一郎

同県藤沢市朝日町一丁目二五一番地

被告

藤沢税務署長 伊藤稔博

右指定代理人

高須要子

琵琶坂義勝

南須原勉

山本寧

山田昭四郎

鈴木高一

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告の昭和五〇年分及び同五一年分の各所得税について、被告が同五三年四月二六日付でした各更正及び各重加算税の賦課決定をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  本件各処分の経緯

原告の昭和五〇年分及び同五一年分の各所得税についての確定申告、これに対する被告の更正及び重加算税賦課決定(以下、被告の昭和五〇年分の更正及び重加算税賦課決定並びに同五一年分の更正及び重加算税賦課決定を「本件各処分」ということがある。)並びに不服審査の経緯は、別表一の1、2記載のとおりである。

2  本件各処分は次のとおり違法である。

被告は、昭和五〇年分の更正において、原告が租税特別措置法(昭和五四年三月三一日法律第一五号による改正前のもの。以下、単に「措置法」という。)三一条一項に規定する長期譲渡所得の金額(なお、右長期譲渡所得の金額から同項に規定する長期譲渡所得の特別控除した金額を「分離長期譲渡所得金額」ということがある。)の算出に際して、譲渡費用として控除した二一三万六九〇二円のうち二〇五万円を同費用とは認めず、また、同五一年分の更正においても、原告が長期譲渡所得の金額の算出に際して、譲渡費用又は取得費として控除した九七三万〇八〇〇円のうち、九二二万五〇〇〇円を同費用等とは認めず、右各金額を分離長期譲渡所得金額に加算したのは違法である。

したがって、右分離長期譲渡所得金額を前提とした被告の昭和五〇年分各処分及び同五一年分各処分はいずれも違法である。

よって、原告は、本件各処分の取消しを求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1項の事実は認める。

2  同2項は争う。

三  被告の主張

1  昭和五〇年分の更正及び重加算税賦課決定について

(一) 被告のした原告の昭和五〇年分の所得税に関する更正における分離長期譲渡所得金額の計算の内訳は別表二1記載のとおりであり、右分離長期譲渡所得金額の算出根拠及び算出方法は、次のとおりである。

(1) 収入金額 一三六三万円

原告が、昭和五〇年一二月二七日、訴外田辺平八及び同ミチ子(以下「田辺ら」という。)に対し、神奈川県高座郡寒川町宮山一二六番地の三の土地(地積二〇四・九六平方メートル。以下「本件(一)土地」という。)を代金一三六三万円で売却して得た金額

(2) 取得費 六八万一五〇〇円

原告が本件(一)土地を昭和二七年一二月三一日以前から引き続き所有していたことにより、措置法三一条の三第一項に基づき計算された金額

(3) 譲渡費用 八万六九二〇円

原告が本件(一)土地の譲渡に関して支出した登記手続費用一万六六二〇円、測量費六万〇一〇〇円及び雑費一万〇二〇〇円の合計額

(4) 特別控除額 一〇〇万円

措置法三一条一項及び二項に基づく特別控除額

(5) 右分離長期譲渡所得金額の算出方法は別表三1記載のとおりである。

したがつて、被告が原告の昭和五〇年分の所得税についてした更正の分離長期譲渡所得金額は一一一五万一五八〇円であり、右別表三1の分離長期譲渡所得金額欄記載の一一八六万一五八〇円を下回るから、違法はない。

(二)(1) 原告は、左記の諸費用もまた、本件(一)土地の譲渡費用であるとして、分離長期譲渡所得金額から控除して確定申告をした。

(ア) 一三〇万円

原告が訴外日本地下資源開発株式会社(以下「日本地下資源開発」という。)に対し、低湿地で売却困難な本件(一)土地をできるだけ高価に売却するため、その調査・売却方法一切を依頼し、昭和五〇年一二月一九日、その委任事務の処理に対する謝金として支払つた。

(イ) 二五万円

原告が、昭和五〇年一二月二日、訴外パシフイツク観光開発株式会社(以下「パシフイツク観光開発」という。)に対し、同会社との間で締結していた本件(一)土地の売却の仲介契約の解約に際し、右解約までに同会社が必要とした旅費等の費用を清算するために支払つた。

(ウ) 五〇万円

原告が、昭和五〇年一二月二七日、訴外相田博(以下「相田」という。)に対し、本件(一)土地の売却方を依頼したことによる謝金として支払つた。

(2) しかしながら、次のとおり、原告が右(ア)ないし(ウ)の諸費用を支出した証拠として提出した各領収書はいずれも架空のものであり、原告が右諸費用を支出した事実も認められない。

(ア) 昭和五〇年一二月一九日付の日本地下資源開発名義の領収書(一三〇万円)記載の所在地には、同日当時、同会社は存在せず、また、原告は、同会社に対する右支払について、東京国税局係官(以下「被告所部係官」という。)の調査に際し、同会社の関わりについては何らの具体的説明をすることができず、その後これを譲渡費用に当たると主張したり、更に本件(一)土地とは別の土地の売買に係る費用であるなどと主張を変えている。

(イ) 昭和五〇年一二月二日付のパシフイツク観光開発名義の領収書(二五万円)記載の所在地においては、同日以前から、同会社は何らの営業活動をも行つておらず、また、右領収書記載の日付は本件(一)土地の売買に何ら関与しなかつた。原告もまた被告所部係官の調査に対し、同会社の関わりについて何らの具体的説明をすることもできなかつた。

(ウ) 原告が相田に対する支払いの証拠として提出した領収書(五〇万円)は、訴外杉本千代子(以下「杉本」という。)作成名義であり、原告と田辺らは、本件(一)土地の売買について直接交渉し、仲介人の介在する余地がなかつた。

したがつて、被告が右(1)(ア)ないし(ウ)の諸費用を控除しなかったことに何らの違法はない。

(三) 原告は、前記のとおり、架空の領収書に基づき本件(一)土地に係る架空の譲渡費用を計上し、昭和五〇年分の分離長期譲渡所得金額を過少に申告したものであり、右は国税通則法六八条一項の「課税標準の計算の基礎となるべき事実を仮装又は隠ぺいし、その仮装または隠ぺいしたところに基づいて申告していた」ことに該当するから、被告は、同条を適用し、原告の昭和五〇年分の所得税につき、重加算税賦課決定をしたものであり、右の点に何らの違法はない。

2  昭和五一年分の更正及び重加算税賦課決定について

(一) 被告のした原告の昭和五一年分の所得税に関する更正における分離長期譲渡所得金額の計算の内訳は別表二2記載のとおりであり、右分離長期譲渡所得金額の算出根拠及び算出方法は次のとおりである。

(1) 収入金額 一八九〇万円

原告が、昭和五一年六月三日、訴外谷政治(以下「谷」という。)に対し、神奈川県高座郡寒川町宮山一二六番の一の土地(地積二一〇・六四平方メートル。以下「本件(二)土地」という。)を代金一八九〇万円で売却して得た金額

(2) 取得費 九四万五〇〇〇円

原告が本件(二)土地を昭和二七年一二月三一日以前から引き続き所有していたことにより、措置法三一条の三第一項に基づき計算された金額

(3) 譲渡費用 五〇万五八〇〇円

原告が本件(二)土地の売買に関して支出した訴外有限会社鈴木不動産に対する仲介手数料四七万五八〇〇円及び雑費三万円の合計額

(4) 特別控除額 一〇〇万円

措置法三一条一項、二項に基づく特別控除額

(5) 分離長期譲渡所得金額の算出方法は別表三2記載のとおりである。

したがつて、被告が原告の昭和五一年分の所得税についてした更正の分離長期譲渡所得金額は一六四四万九二〇〇円となり、右別表三2の分離長期譲渡所得金額欄記載の金額と同じであるから、違法はない。

(二)(1) 原告は、左記の(ア)ないし(カ)の諸費用もまた、本件(二)土地の売買に関する取得費又は譲渡費用であるとして分離長期譲渡所得金額から控除して確定申告をし、更に、本件(二)土地の代金額を一三八六万円として申告しながら、同土地の真実の代金額一八九〇万円と右一三八六万円との差額五〇四万円は左記(キ)の費用であり、分離長期譲渡所得金額から控除さるべき譲渡費用であるとする。

(ア) 二〇七万五〇〇〇円

原告が日本地下資源開発に対し、同会社の施工した本件(二)土地の埋立盛土工事の代金として、昭和五一年六月一三日に一五万円、同月二八日に一七万五〇〇〇円及び同年八月五日に一七五万円支払つた合計額

(イ) 二四万六〇〇〇円

原告が、昭和五一年八月五日、訴外丸一商事株式会社(以下「丸一商事」という。)に対し、埋立工事の人夫調達費として支払つた。

(ウ) 七四万四〇〇〇円

原告が、昭和五一年二月四日、訴外有限会社財商企画(以下「財商企画」という。)に対し、本件(二)土地売却のための広告宣伝費等の謝金として訴外野島峰雄(以下「野島」という。)を通じて支払つた。

(エ) 二七万円

原告が、昭和五一年二月一五日、訴外北海道植産株式会社(以下「北海道植産」という。)に対し、本件(二)土地をできるだけ高額で売却するために依頼した調査等に関する謝金として支払つた。

(オ) 五〇万円

原告が、昭和五一年八月五日、訴外日本産業資源株式会社(以下「日本産業資源」という。)に対し、右(エ)と同様の趣旨で依頼した事務処理の謝金として支払つた。

(カ) 三五万円

原告が、昭和五一年六月三日、訴外三宝工芸株式会社(以下「三宝工芸」という。)に対し、同会社が本件(二)土地の売却に関し種々の便宜を図つたことに対する謝金として支払つた。

(キ) 五〇四万円

原告が、昭和五二年八月ころ、訴外木村安博(以下「木村」という。)に対し、本件(二)土地の売却を依頼していたにもかかわらず、同人を介さずに売却したことによつて同人の被つた損害の賠償金として支払つた。

(2) しかしながら、原告が右(ア)ないし(カ)の各費用の証拠として提出した領収書は、次のとおり、いずれも架空のものであり、また、右(ア)ないし(キ)の各支払の事実を認めることができる証拠はなく、右各費用支払の事実は認められない。

(ア) 原告が提出した昭和五一年六月一三日付、同月二八日付及び同年八月五日付の各領収書は、いずれも日本地下資源株式会社(以下「日本地下資源」という。)の作成名義に係るものであつて、日本地下資源開発のものではないうえ、日本地下資源は、右各領収書記載の所在地には商業登記簿上も存在せず、同会社は同所には存在しない。仮に、原告の主張するように日本地下資源が日本地下資源開発の別名であるとしても、前記のとおり、日本地下資源開発は右各領収書記載の日付当時、同所に存在しなかつた。更に、谷が本件(二)土地購入当時、同土地の道路側に面した部分は瓦礫等が散乱した荒地であり、道路から奥まった部分は田圃であつたため、谷において右土地の埋立盛土工事を施行させたのであるから、原告において埋立盛土工事を行う余地はなかつた。

(イ) 昭和五一年八月五日付の丸一商事作成名義の領収書記載の所在地において、同会社は同日以前から営業活動を行つていなかつた。原告もまた、被告所部係官の調査に対し、同会社の本件(二)土地の売買の関わりについて、具体的説明をすることができなかつた。また仮に日本地下資源が日本地下資源開発であつたとしても、日本地下資源開発が本件(二)土地の埋立盛土工事を行つたことが認められないことは前記のとおりであるから、その人夫賃もまた必要がない。

(ウ) 昭和五一年二月四日付の財商企画作成名義の領収書記載の所在地において、同会社は同日以前から営業活動を行つていなかつた。原告もまた、被告所部係官の調査に対し、本件(二)土地の売買につき、同会社が具体的にどのように関与したかの説明をすることができなかつた。また、原告は、自ら、同会社の関与したのは本件(二)土地とは別の土地の売買である旨申述していた。

(エ) 昭和五一年二月一五日付の北海道植産作成名義の領収書及び同年八月五日付の日本産業資源作成名義の領収書記載の各所在地において、右両会社は右各日付以前から営業活動を行つていなかつた。原告もまた、被告所部係官の調査に対し、右両会社の関わりについて具体的な説明をすることができなかつた。また、原告は、土地売買に十分な知識を有し、本件(二)土地の立地条件も良好であつて売却が容易であつたから、特別に売却のための調査は必要がないうえ、二一〇平方メートル余りの本件(二)土地の売却のために、右両会社に依頼する必要はなかつた。

(オ) 昭和五一年六月三日付の三宝工芸作成名義の領収書記載の所在地において、同会社は、同日以前から営業活動を行つていなかったうえ、同会社の存在さえも不明である。原告も被告所部係官の調査に対し、同会社が本件(二)土地の売買にどのように関与したのかについて具体的な説明をすることができなかつた。

(カ) 本件(二)土地が売買されるに至つた経緯は、谷が訴外鴨志田栄及び同木村久に不動産の買入方を依頼し、同人らが前記有限会社鈴木不動産に仲介を依頼したため、同会社が同人らに原告を紹介したことによるものである。したがつて、原告が木村に対し損害賠償をする必要はなかつた。また、右損害賠償の支払われたことを証する資料が全くない。原告の木村に対する損害賠償の主張は、被告所部係官の調査において、同係官から、本件(二)土地の売買代金が一八九〇万円であることを指摘されてはじめてなされたものであり、それまでは、右土地の売買価格として一三八六万円と言う虚偽の申告をしていた。したがつて、被告が前記2(二)(1)の(ア)ないし(キ)の諸費用を控除しなかつたことに違法はない。

(三) 原告は、右のとおり、本件(二)土地の売却に係る収入金額を過少に申告し、かつ、架空の領収書に基づき右土地に係る架空の取得費及び譲渡費用を計上して、昭和五一年分の分離長期譲渡所得金額を過少に申告したものであり、右は、昭和五〇年分の所得税におけると同様に、国税通則法六八条一項に該当するから、被告は、同条を適用し、原告の昭和五一年分の所得税につき、重加算税賦課決定をしたものであり、右の点に何らの違法はない。

四  被告の主張に対する原告の認否及び主張

1(一)  被告の主張1項(一)(1)ないし(5)の事実は認め、被告主張の分離長期譲渡所得金額が適法であることは争う。

(二)  同1項(二)(1)の事実は認め、(2)の事実は否認する。被告は、次のとおり、事実を誤認したものである。

(1) 日本地下資源開発は、昭和四四年当時から、埼玉県比企郡都幾川村を本店とし、昭和五〇年一二月一九日付の領収書記載の所在地である東京都板橋区赤塚四丁目一四番九号を支店としており、右支店は昭和四四年一一月二四日に登記されている。また、右支店は、板橋税務署及び東京都板橋都税事務所から、法人税、固定資産税等について欠損金額の修正通知等を受けている。更に、右支店は、東京法務局板橋出張所に法人の印鑑登録をし、また、東松山税務署の係官からも税務調査のための訪問を受けたこともある。以上からすれば、日本地下資源開発は右東京都板橋区の所在地に存在しているのである。

(2) パシフイツク観光開発は、昭和四七年に東京都港区新橋を本店として設立され、同五一年七月二二日には、同四九年五月一日から同五〇年四月三〇日までの事業年度分の法人税確定申告書を芝税務署に提出しているうえ、同五〇年当時、北海道の函館市を中心として宅地の造成及び分譲並びにレジヤー施設及び保養施設の建設等を企画し、右企画のためのパンフレツト及びチラシを作成して広告を行つていた。したがつて、同会社は、昭和五〇年一二月ころ営業活動をしていたのである。

なお、売買が成立しない場合でも、依頼者が仲介者に不動産売買仲介に関して必要とされた旅費等の費用を払うことを約し、又はこれを支払うことは実例として多々あることである。

(3) 相田が原告に対し、杉本名義の領収書を交付したのは、相田が宅地建物取引業を営む免許を有しておらず、宅地建物取引業法の罰則の適用を受けることを恐れ、自己の名を秘し、杉本名義としただけのことであり。このことは田辺平八も承知している。したがつて、右領収書は架空のものではない。

(三)  同1項(三)は争う。

2(一)  同2項(一)の事実のうち、(1)、(3)ないし(5)は認め、(2)は、原告が本件(二)土地を昭和二七年一二月三一日以前から引き続き所有していたことは認め、その余は争う。

(二)  同2項(二)(1)の事実は認め、(2)の事実は否認する。被告は、次のとおり、事実を誤認したものである。

(1) 日本地下資源とは、日本地下資源開発のことであり、昭和五一年六月一三日付、同月二八日付及び八月五日付の各領収書の作成名義が日本地下資源となつているのは、ゴム印屋が間違えて作成したものを使つただけのことである。日本地下資源開発が当時実在して営業活動していたことは前記のとおりである。また、谷は、本件(二)土地につき、同会社が埋立盛土工事を行つた後、更に工事を行つたものである。

(2) 日本産業資源は、三東食品株式会社の商号で昭和四七年一二月一日、東京都文京区千石一丁目六番二四号九〇三を本店として設立され、同四八年三月一六日に本店を豊島区巣鴨三丁目に移転し、同年八月二日、商号を日本産業資源と変更するとともに、再び本店を右文京区千石に移転したものであつて、同五一年当時、同所において営業活動を行つていた。

(3) 原告は、木村から損害賠償金の支払につき領収書を徴することができず、同人と連絡を取ることができなかつたため、やむを得ず収入金額から右費用を控除し、本件(二)土地の代金を一三八六万円として申告せざるを得なかつたものであり、原告が木村に右損害賠償金を支払つたことに間違いはない。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載と同じであるから、これを引用する。

理由

一  請求の原因1項(本件各処分及びこれに対する不服審査の経緯)の事実は、当時者間に争いがない。

二  原告の昭和五〇年分の所得に関し、原告が、昭和五〇年一二月一七日、田辺らに対し、本件(一)土地を代金一三六三万円で売り渡したこと、右土地の取得費が六八万一五〇〇円であること、右土地の譲渡に関し支出した登記手続費用、測量費及び雑費の合計額が八万六九二〇円であること、特別控除額が一〇〇万円であること、また、原告の昭和五一年分の所得に関し、原告が、昭和五一年六月五日、谷に対し、本件(二)土地を代金一八九〇万円で売り渡したこと、右土地の売買に関し、有限会社鈴木不動産に支払つた仲介手数料及び雑費の合計が五〇万五八〇〇円であること、特別控除額が一〇〇万円であること、及び原告は、確定申告の際、本件(二)土地の代金額を一三八六万円として申告したことは、いずれも当事者間に争いがない。

三  原告は、先ず、昭和五〇年分の分離長期譲渡所得金額から日本地下資源開発に支払つた一三〇万円、パシフイツク観光開発に支払つた二五万円及び相田に支払つた五〇万円を本件(一)土地売却に係る譲渡費用として控除されるべきであり、また、昭和五一年分の分離長期譲渡所得金額から日本地下資源開発に支払つた二〇七万五〇〇〇円、丸一商事に支払った二四万六〇〇〇円、財商企画に支払つた七四万四〇〇〇円、北海道植産に支払つた二七万円、日本産業資源に支払つた五〇万円、三宝工芸に支払つた三五万円を本件(二)土地売却に係る取得費又は譲渡費用として控除さるべきである旨主張し、被告は右支払の事実を争うので、検討する。

いずれも成立に争いのない甲第九号証、第二一号証、乙第五号証、第七号証、第一七号証、いずれも原本の存在及び成立に争いのない甲第二三号証の一、二、乙第二号証、第八号証、第一二号証、いずれも証人木村安博の証言により真正に成立したものと認められる甲第一号証、第八号証、第一四ないし二〇号証、第二二号証、証人小澤邦重の証言により真正に成立したものと認められる乙第三、四号証、第六号証、第一五、一六号証、第一八、一九号証、証人池田基志の証言により真正に成立したものと認められる乙第一三号証、証人相田博の証言により真正に成立したものと認められる乙第一〇号証、証人加藤彬の証言により真正に成立したものと認められる乙第一四号証、証人木村安博(ただし、後記措信しない部分を除く。)、同池田基志、同小澤邦重、同加藤彬、同相田博(ただし、後記措信しない部分を除く。)、同田辺平八の各証言及び原告本人尋問の結果(ただし、後記措信しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

1  原告は、商品取引相場に投資して巨利を博することを企図し、昭和四十七、八年ころから金員を借り受けるなどして投資したが、結局失敗して負債を抱えることになつたこと、当時、原告は、自称(一)級戦犯と称する野島と昵懇の間柄であり、同人を尊敬し、色々相談相手としていたところ、同人は原告に対し「栃木県栃木市に笹川良一の関係する青少年育成広場の建設計画があるので、原告もこれに資金面などで協力すれば役員に就任することもできる。そうすると、原告は商品取引相場で被つた損害を回復する位の役員報酬その他の見返りがある。」旨を告げたので、原告も右の話を鵜呑みにして信用し、野島の右計画に協力することになり、原告は、野島との話合いのうえ、原告所有の土地を売却して右借受金を少しでも返済するとともに、野島の協力の下に同土地を売却したような形式をとることによつて、野島に右売却に関する費用名義で右計画推進のための資金を提供することとしたこと、そこで、原告は、その所有の神奈川県高座郡寒川町宮山の土地約一四〇坪(以下「宮山の一四〇坪の土地」という。)及び本件(一)、(二)の各土地の売買に関連し、野島から名目上は右売買のための調査費、旅費、宿泊費等の費用として、実質的には右建設計画の推進費用又は原告の役員就任のための運動資金として金員の提供方を何度も要求され、原告も、その金額はさておき、その都度これに応じていたこと、もつとも 原告としても、野島の要求額は高額に過ぎるとは思いながらも、それが右運動資金等であるため、請求書も受け取らず、また、その要求額の具体的内容等に関しても何らの説明も受けず、確認することさえもしなかつたこと、

2  野島は、原告に対し、前記土地売買に伴う費用支出の形式を整える協力者として木村を紹介したこと、木村は休眠会社あるいは、いわゆるペーパーカンパニーである日本地下資源開発、日本地下資源、パシフイツク観光開発、北海道植産、日本産業資源、その他数社の代表者又は役員であつたこと、すなわち、北海道植産は、その存在も明らかではないこと、日本地下資源開発は、昭和四八年ころから商業登記簿上の本店所在地から立ち退き、所在が不明となり、同五〇年ころには、日本電信電話公社作成の職業別電話帳に電話番号も掲載されていなかつたこと、日本地下資源は、昭和五一年当時、商業登記簿上の本店所在地には事務所も存在しなかつたこと、パシフイツク観光開発は、昭和四七、八年ころ、函館市付近の土地につきレジヤーランド開発計画をしたこともあつたが、親会社の訴外松井商事株式会社が同四九年一一月六日に不渡手形を出して事実上倒産した後は、その影響を受け、同五〇年ころには営業活動はほぼ不可能となり、ほとんど休眠状態であつたこと、更に、日本産業資源は、同五〇年暮から同五一年初めにかけて、商業登記簿上の本店所在地から逃げるようにして立ち退き、所在不明となつていたこと、

3  野島と木村は協議のうえ、木村の関与する前記休眠会社等が本件(一)、(二)土地の売買等を担当したように装うこととし、昭和五〇年一二月二七日付の本件(一)土地の売買に関するものと称し、日本地下資源開発作成名義の同月二九日付の一三〇万円を土地売買の調査費及び諸経費として受領した旨の領収書(甲第一号証)、パシフイツク観光開発作成名義の同月二日付の二五万円を旅費、交通費等として受領した旨の領収書(甲第八号証)、同五一年六月三日付の本件(二)土地の売買に関するものと称し、北海道植産作成名義の同年二月二五日付の二七万円を土地調査費用として受領した旨の領収書(甲第一九号証)、日本産業資源作成名義の同年八月五日付の五〇万円を土地調査費用として受領した旨の領収書(甲第二〇号証)(なお、同会社は当時すでに三東商事株式会社と商号が変更されていた。)、日本地下資源作成名義の同年六月一三日付の一五万円を物件案内車代他交通費(甲第一四号証)、同月二八日付の一七万五〇〇〇円を旅費、交通費用、車両リース立替分(甲第一五号証)及び同年八月五日付の一七五万円を土地造成費用(甲第一六号証)としてそれぞれ受領した旨の領収書、同日付の丸一商事(その存在さえも明らかでない。)作成名義の二四万六〇〇〇円を人夫代として代表者の野島が受領した旨の領収書(甲第一七号証)、野島の関係する三宝工芸(その存在さえも明らかでない。)作成名義の同年六月三日付の三五万円を売買工作協力費として受領した旨の領収書(甲第二二号証)が作成されたこと、更に、本件(二)土地の売買に関するものと称して、財商企画作成名義の同五一年二月四日付の七四万四〇〇〇円を広告代として受領した旨の領収書(甲第一八号証)が作成されているが、原告は右広告を見たこともないこと、

前記各会社は、当時その実体がないか、あるいは休眠状態であって、右領収書記載の行為はもちろん、それに値いするような行為をしていなかったから、原告は、昭和五四年九月六日、東京国税不服審判所横浜支所において、審判官富田有に対しても、前記各領収書は宮山の一四〇坪の土地の売却依頼に関し、その譲渡費用として原告が野島に現金で支払つた際受領したものであり、本件(一)、(二)土地の譲渡とは関係がない旨述べ、その際、木村もこれに立会し、原告の述べたことに相違ない旨述べていたこと、

4  本件(一)土地の売買に関し、杉本名義の昭和五〇年一二月二七日付の礼金として五〇万円を受領した旨の領収書(乙第一〇号証)が作成されているが、原告は同女に右礼金を支払う必要は全くないこと、これは、同土地の購入者である田辺らの依頼を受けて訴外サンワ不動産が適当な土地を捜していたところ、同不動産の依頼で相田が原告にその話を持ち込んだにすぎないところ、原告と相田が協議し、ほしいままに右領収書が作成されたものであること、原告としても相田にも礼金を支払う必要は全くなかつたこと、

5  本件は(一)、(二)土地はもと田圃であつたので、原告は当初これを宅地に造成して売却することを計画し、先ず、その造成費用を安上りにするために、本件(一)土地の売買に先立ち、双葉企業と称する業者に右両土地に瓦礫その他の産業廃棄物などを捨てさせたので、両土地の一部はあたかも埋立、盛土がなされたような外観を呈したこと、右業者にとつては産業廃棄物等を捨てさせてもらうこと自体が大きな利益であつて、原告としてはこれに対して更に費用などを支払う必要がないこと、

以上の事実が認められ、証人木村安博、同相田博、同田辺平八及び原告本人の各供述中右認定に反する部分は前顕証拠に照らして措信することができず、その他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、原告主張の各費用は、仮に原告においてその全額を支払つたとしても、本件(一)、(二)土地の売買に関して支払う義務を負つたものということはできないから、その余の点については判断するまでもなく、その支払が分離長期譲渡所得金額から控除されるべき旨の主張は採用することができない。

四  原告は、次に、原告が本件(二)土地の売買に関して木村に対し損害を与えたので、その賠償金として五〇四万円を支払つた旨主張するが、本件(二)土地の売買に関し、原告が木村に対して五〇四万円の損害賠償義務を負つたことは本件全証拠によつてもこれを認めることができない。

したがつて、原告が木村に対し右損害賠償義務を負つていることを前提とするその余の主張については、判断するまでもなく採用することができない。

五  原告の昭和五〇年分及び同五一年分の分離長期譲渡所得金額の各算出方法については、いずれも当事者間に争いがない。

してみると、原告の昭和五〇年分及び同五一年分の各所得税の更正において、分離長期譲渡所得について、被告が原告主張の前記費用を控除しなかつたことに何らの違法はない。

六  次に、原告の昭和五〇年分及び同五一年分の各所得税に関する各重加算税賦課決定について検討するに、右各賦課決定の前提である右各年分の各所得税の更正に、所得を過大に認定した違法がないこと、並びに、原告は右所得税の申告に際し、本件(一)及び(二)土地の譲渡とは全く関係がない前記諸費用をその旨認識しながら譲渡費用として計上し、昭和五〇年分及び同五一年分の各分離長期譲渡所得金額を過少に申告し、右諸費用に係る領収書を提出したことは、先に認定したとおりであるから、右事実は、国税通則法六八条一項に該当するものということができる。

したがつて、被告が原告に対し、昭和五〇年分及び同五一年分の各所得税に関し、同条項を適用して重加算税賦課決定を行つたことにつき何ら違法の廉はないものといわなければならない。

七  以上によると、原本の本訴請求は、いずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古館清吾 裁判官 足利謙三 裁判官吉戒修一は転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 古館清吾)

別表一

1 昭和五〇年分

<省略>

2 昭和五一年分

<省略>

別表二

1 昭和五〇年分分離長期譲渡所得内訳

<省略>

2 昭和五一年分分離長期譲渡所得内訳

<省略>

別表三

1 昭和50年分の分離長期譲渡所得金額の算出方法

(一) 本件(一)土地の譲渡による収入金額(措置法31条1項)1363万円

(二) (一)の収入金額から本件(一)土地の取得費及び譲渡費用を控除した額(以下「譲渡益」という。措置法31条1項、所得税法33条3項)

譲渡益=1363万円-68万1500円-8万6920円=1286万1580円

なお、取得費は収入金額に100分の5を乗じた額(措置法31条の4)

取得費=1363万円×5/100=68万1500円

(三) 譲渡益の金額から特別控除した額(分離長期譲渡所得。措置法31条1項、2項)

分離長期譲渡所得=1286万1580円-100万円=1186万1580円

2 昭和51年分の分離長期譲渡所得金額の算出方法

(一) 本件(二)土地の譲渡による収入金額(措置法31条1項)1890万円

(二) 譲渡益=1890万円-94万5000円-50万5800円=1744万9200円

なお、取得費は収入金額に100分の5を乗じた額(措置法31条の4)

取得費=1890万円×5/100=94万5000円

(三) 分離長期譲渡所得=1744万9200円-100万円=1644万9200円

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